内部監査基準

この基準は平成16年4月27日開催の日本内部監査協会・第130回理事会において承認されたものである。

昭和35(1960)年制定
昭和52(1977)年改訂
平成8(1996)年改訂
平成16(2004)年改訂

まえがき

この内部監査基準は、内部監査が、組織体においてどのような性格を持つ機能であるのか、そして、その担い手である内部監査人は、いかなる資質と独立性とを有し、かつ、組織体内の各部門等に対してどのようなあり方をとるのか、また、内部監査部門は、自らの業務の質をどのように高めていくのか、さらに、組織体に対する他の監査とどのような関係にあるのかを明らかにし、内部監査人が監査の実施にあたって遵守すべき事項、および実施することが望ましい事項を示したものである。

この基準の目的は、次のとおりである。

  1. 内部監査の実務において範となるべき基本原則を明らかにすること
  2. 組織体の目標達成のために内部監査を実施し、これを推進するためのフレームワークを提供すること
  3. 内部監査の実施とその成果を評価する規準を確立すること
  4. 組織体の運営プロセスや諸業務の改善の促進に役立つこと
  5. 内部監査の実施内容の開示に関する要件の基礎を提供すること

しかしながら、各組織体における内部監査は、設置の目的、適用される法令、業種とその競争状況、規模、その他組織体の環境や組織体特有の条件により、その実施の方法を異にしている。
したがって、この基準を適用するにあたっては、個々の組織体に特有の条件を理解してこれを勘案し、この基準を前提にしながら、個々の組織体に真に適合する内部監査の実施方法をとっていくことが必要である。

各組織体においては、それぞれに特有の内部監査の実施方法がとられるにしても、内部監査人がその責任を果たすにあたっては、この基準が尊重されなければならない。この基準の説明ないしは適用にあたっての参考として、別に「内部監査基準実践要綱」および「内部監査実務全書」が作成されている。

[1]内部監査の意義

  1. 内部監査の本質
    内部監査とは、組織体の経営目標の効果的な達成に役立つことを目的として、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で、経営諸活動の遂行状況を検討・評価し、これに基づいて意見を述べ、助言・勧告を行う監査業務、および特定の経営諸活動の支援を行う診断業務である。
    これらの業務では、リスク・マネジメント、コントロールおよび組織体のガバナンス・プロセスの有効性について検討・評価し、この結果としての意見を述べ、その改善のための助言・勧告を行い、または支援を行うことが重視される。
  2. 内部監査の必要性
    組織体がその経営目標を効果的に達成するためには、経営管理体制を確立し、事業活動の効率的推進を図るとともに、組織体に所属する人々の規律保持と士気の高揚を促し、あわせて社会的な信頼性を確保していくことが必要である。内部監査は、これらの状況を検討・評価し、必要に応じて、組織体の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告するとともに、その実現を支援する機能として、その重要性を認識することができる。
    また一方、組織体はその大規模化や活動範囲の分散化等の程度が大きくなるにしたがい、権限委譲に基づく分権管理の度合いが高くなる。この分権管理が組織体の目標達成に向けて効果的に行われるようにするためには、内部監査によるその検討・評価が一層必要となってくる。
    個々の組織体の内部監査機能は、それに対する期待やその内容の整備・充実の程度によって必ずしも一様とはいえない。この内部監査機能が効果的に遂行されることによって、例えば、次のような要請に応えることができる。
    (1) 経営目標が組織体の末端にまで浸透し、目標に沿った施策が効果的に実行されているかを検討・評価し、その改善を図ることによって目標の効果的達成を促進すること
    (2) 識別されたビジネス・リスクに対応した効果的な内部統制システムの充実を促進すること
    (3) 内部統制システムの整備・運用状況を検討・評価し、その改善を図ることによって内部統制の目標(情報の信頼性、法令準拠性の確保、効率性の向上)をより効果的に達成するとともに、法定監査の実施に資するものとすること
    (4) 組織体の全体的な業務の実施状況や、部門間の連携状況を検討・評価し、その改善を図ることによって、組織体全体としての円滑な業務運営を図り、経営活動のより一層の合理化を促進すること
    (5) 事業活動の地域的分散化、特にグローバル化に対応して、現地での経営が、地域の法制や経営環境に正しく適応しているかを検討・評価し、その改善を図ることによって事業活動の効果的遂行を促進すること
    (6) 情報システムの有効性および効率性に関し、組織体の求める水準を達成しているかを検討・評価し、その改善を図ることによって情報システムの効果的運用を促進すること
    (7) 地球環境の保全に向けて、その対応状況や管理状況を検討・評価し、その改善を図ることによって効果的な環境管理・審査システムの構築ないし確立を促進すること

[2]内部監査の独立性と組織上の位置

  1. 内部監査の独立性と客観性
    内部監査が効果的にその目的を達成するためには、検討・評価の結果としての助言・勧告が、公正不偏かつ客観的なものでなければならない。また内部監査活動そのものについても、他からの制約を受けることなく自由に、かつ、公正不偏な態度で客観的に遂行し得る環境になければならない。このため内部監査機能は、その対象となる諸活動についていかなる是正権限や責任も負うことなく、組織的に独立し、また、精神的にも客観的である必要がある。
    内部監査機能を独立した部門として組織化することは、内部監査人が内部監査の遂行にあたって不可欠な公正不偏な判断を堅持し、自律的な内部監査活動を行うための前提要件である。
    独立性または客観性が損なわれていると認められる場合には、内部監査部門長は、その詳細を、喪失の程度に応じて、最高経営者その他適切な関係者に報告しなければならない。内部監査人は、以前に責任を負った業務について、特別のやむを得ない事情がある場合を除き、監査業務を行ってはならない。
    また、内部監査部門長が責任を負っている他の業務については、内部監査部門以外の者によって調査されることが必要である。
    内部監査人が、以前に責任を負っていた業務について診断業務を実施することはできるが、この場合であっても、客観性が保持されないと認められるときは、事前に依頼部門に対してその旨を明らかにしなければならない。
  2. 内部監査部門の組織上の位置
    内部監査は、全般的な経営目標の効果的達成に役立つことを目的として行われるものであるから、内部監査部門は、組織上、原則として、最高経営者に直属し、同時に、取締役会または監査役会もしくは監査委員会への報告経路を確保する。
    組織体の事情により最高経営者以外に所属する場合には、内部監査の独立性が十分に保持され、監査の結果としての指摘事項・助言・勧告に対し、適切な措置を講じ得る経営者層に属することが肝要である。
  3. 内部監査人の責任と権限
    内部監査を効果的に実施していくためには、その目的や活動範囲等とともに、内部監査人の責任および権限についての基本的事項、その他本基準で求められている事項が、最高経営者および取締役会、またはそれらのいずれかによって承認された組織体の基本規程として明らかにされなければならない。

[3]内部監査人の能力および正当な注意

内部監査は、その責任を果たすために、熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって遂行されなければならない。

  1. 専門的能力
    内部監査人が、個々の職責を果たすに十分な知識、技能および能力を有していなければならないのみでなく、内部監査部門全体として、その職責を果たすために十分な知識、技能および能力を有していなければならない。これを欠く場合には、内部監査部門長は適切な措置を講じなければならない。
    内部監査部門は、情報システムについての監査の職責を果たすに十分な知識、技能および能力を有していなければならない。
  2. 専門職としての正当な注意
    内部監査人は、内部監査の実施にあたって、内部監査人としての正当な注意を払わなければならない。正当な注意とは、内部監査の実施過程で専門職として当然払うべき注意であり、特に留意しなければならないものに、例えば、次の諸事項がある。
    (1)監査証拠の収集と評価に際し必要とされる監査手続の適用
    (2)リスク・マネジメントおよびコントロールの妥当性と有効性
    (3)ガバナンス・プロセスの有効性
    (4)重大な誤謬、不当事項および法令違反の兆候
    (5)監査能力の限界についての認識とその補完対策(他の専門家の助力の利用等)
    (6)監査意見の形成および監査報告書の作成にあたっての適切な処理
    (7)費用対効果
    なお、正当な注意は、全く過失のないことを意味するものではない。また、専門職としての正当な注意を払って内部監査が実施された場合においても、重大なリスクのすべてが識別されることを意味するものではない。また、内部監査人は、職務上知り得た事実を慎重に取り扱い、正当な理由なく他に漏洩してはならない。
  3. 専門的知識・技能の継続的な維持・向上
    内部監査人は、内部監査の遂行に必要な知識・技能を継続的に研鑽し、その資質の一層の向上を図ることにより、内部監査の質的維持・向上、ひいては内部監査に対する信頼性の確保に努めることが必要である。

[4]内部監査の品質管理

  1. 品質管理プログラムの作成と保持
    内部監査部門長は、個々の内部監査および内部監査部門全体としての品質を保証できるよう、内部監査活動の有効性を持続的に監視する品質管理プログラムを作成し、保持しなければならない。
    品質管理プログラムを作成し、これを保持することによって、内部監査が組織体の経営目標の効果的な達成に役立ち、内部監査基準および倫理綱要の遵守を確保することになる。
  2. 品質管理プログラムによる評価の実施
    内部監査部門長は、内部評価と外部評価とから成る品質管理プログラム全般の効果的な評価のための手順を明示しなければならない。
    内部評価は、部門内の自己評価と、組織体内の他部門による定期的な評価とから成る。
    外部評価は、組織体外の適格かつ独立の者によって、少なくとも5年ごとに実施されることとする。
  3. 品質管理プログラムによる評価結果の報告
    内部監査部門長は、品質管理プログラムによる評価結果を最高経営者および取締役会、またはそれらのいずれかに報告しなければならない。
  4. 「基準に従って実施された」旨の記載
    品質管理プログラムによる評価によって、内部監査基準に準拠していることが確実と立証された場合には、内部監査報告書において「この監査は『内部監査基準』に従って実施された」旨を記載することができる。
  5. 不完全な遵守の開示
    内部監査部門および内部監査人は、「内部監査基準」および「倫理綱要」を遵守するものとする。これらの遵守に欠けるところがあり、これにより、監査の最終意見の形成に必要にして十分な情報を入手できない場合には、その旨を最高経営者および取締役会、またはそれらのいずれかに報告しなければならない。

[5]内部監査の対象範囲と内容

  1. 内部監査部門の運営
    内部監査部門長は、内部監査が組織体の経営目標の効果的な達成に役立つように、次の各事項を尊重し、内部監査部門を適切に運営しなければならない。
  2. (1) リスク評価に基づく計画の策定
    内部監査部門長は、組織体の目標に適合するよう内部監査実施の優先順位を決定すべく、最低でも年次で行われるリスク評価の結果に基づいて内部監査計画を策定しなければならない。また、このリスク評価のプロセスで、最高経営者および取締役会、またはそれらのいずれかからの意見を考慮しなければならない。
    (2) 報告および承認
    内部監査部門長は、内部監査部門の計画および必要な監査資源について、監査実施過程で重大な変更が生じた場合にはそのことも含めて、最高経営者および取締役会に報告し、そのレビューと承認を得なければならない。また、監査資源の制約により計画に影響が生じる場合には、その影響についても報告しなければならない。
    (3) 監査資源の管理
    内部監査部門長は、承認された内部監査計画の達成のために、適切かつ十分な監査資源を確保し、これを効果的に活用しなければならない。
    (4) 方針および手続
    内部監査部門長は、内部監査部門の運営方針およびその手続を確立しなければならない。
    (5) 調整
    内部監査部門長は、適切な監査範囲を確保し、かつ、業務の重複を最小限に抑えるために、外部監査人、監査役、監査委員会の業務のうち重複するもの、さらに診断業務にあたっては内部監査部門以外によるコンサルティング業務との調整を図らなければならない。調整にあたって、内部監査部門長は、外部監査人、監査役、監査委員会等の内部監査部門以外の組織体内外の関係者と情報を共有するものとする。
    (6) 最高経営者および取締役会への報告
    内部監査部門長は、内部監査計画に関連する内部監査部門の目的、権限、責任および業績について、定期的に最高経営者および取締役会に報告しなければならない。また、これらに加えて、重大な潜在的リスクならびにコントロール上およびコーポレート・ガバナンス上の問題点、その他最高経営者または取締役会によって必要とされる事項も報告する必要がある。
  3. 内部監査の対象範囲
    内部監査の対象範囲には、原則として組織体内のすべての業務活動が網羅される必要があり、また、次に掲げる事頂についての監査業務または診断業務が含まれていなければならない。
  4. (1) リスク・マネジメント
    内部監査部門は、重大な潜在的リスクの識別と検討・評価により、またリスク・マネジメントおよびコントロール・システムの改善に貢献することで、組織体の維持・発展に寄与しなければならない。
    1. 内部監査部門は、組織体のリスク・マネジメント・システムの有効性を評価しなければならない。
    2. 内部監査部門は、組織体のガバナンス、業務の実施および情報システムに関連する潜在的リスクを以下の視点から検討・評価しなければならない。
    ・財務および業務上の情報の信頼性とインテグリティ
    ・業務の有効性と効率性
    ・資産の保全
    ・法律、規則および契約の遵守
    3. 内部監査人は、診断業務を通じてリスク情報を得た場合には、それを組織体の重大な潜在的リスクを識別し、検討・評価するプロセスに反映させなければならない。
    (2) コントロール
    内部監査部門は、組織体のコントロール手段の妥当性、有効性および効率性の検討・評価と、組織体内の各人に課せられた責任を遂行するための業務諸活動の合法性と合理性の検討・評価とにより、組織体が効果的なコントロール手段を維持するように貢献しなければならない。
    1. 内部監査活動は前記のリスク評価の結果に基づき、組織体のガバナンス、業務の実施および情報システム全般にわたるコントロール手段の妥当性と有効性を評価しなければならない。
    2. 内部監査人は、業務および実施プログラムの目標が設定され、それらが組織体全体の目標と適合している程度を確かめなければならない。
    3. 内部監査人は、業務および実施プログラムが意図したように遂行され、業績が得られているかどうかを確かめるため、設定された目標が達成されている程度について、業務および実施プログラムをレビューしなければならない。
    4. コントロールを評価するためには適切な評価規準が必要となる。内部監査人は、経営管理者が業務目標の達成度合いを確かめるための妥当な評価規準を設定しているかどうかを確認しなければならない。
    5. 診断業務においては、内部監査人はその業務目標に適合したコントロール手段に配慮し、コントロールに重大な欠落がないかどうかに注意を払うべきである。
    6. 内部監査人は、組織体の重大な潜在的リスクを識別し、検討・評価するプロセスに、診断業務で得られたコントロール手段についての知識を用いるべきである。
    (3) ガバナンス・プロセス
    内部監査部門は、組織体が以下の目的を達成するために、ガバナンス・プロセスの改善に向けた検討・評価を行い、適切な是正措置を提言しなければならない。
    ・倫理観と価値観の高揚
    ・効果的な組織的業績管理とアカウンタビリティの確保
    ・リスクとコントロールに関する情報の、組織体内の適切な部署に対する有効な伝達
    ・最高経営者、取締役会、監査役会または監査委員会、外部監査人および内部監査人の間におけるそれら活動の効果的な調整と情報の伝達
    内部監査部門は、組織体の倫理上の目的、倫理プログラムと倫理活動の設計、その実施と効果について評価しなければならない。
     なお、関連組織体についての監査は、グループ全体の健全な発展という観点から、当該組織体の経営者や関係者の理解を求め、十分な調整と意見の交換を行う等により、相互の信頼関係の上に立って実施されることが望ましい。
  5. 内部監査計画
    内部監査人は、個々の内部監査について目標、範囲、実施時期および資源配分を含む計画を策定し、これを文書としておかなければならない。個別計画の策定にあたっては、以下の諸点を考慮しなければならない。
    • 対象部門の目標および当該部門がその業績を管理する手段
    • 対象部門の目標および経営資源に対する重大なリスクと、リスクの潜在的な影響を受容可能な水準に維持するための活動および手段
    • 一般的な内部統制モデルとの比較における、対象部門のリスク・マネジメントおよびコントロール・システムの妥当性と有効性
    • 対象部門にかかわるリスク・マネジメントおよびコントロール・システムについての改善勧告
    組織体外部者による内部監査を計画する場合には、内部監査の目標、範囲、関係者の責任、結果の配付、監査業務の記録に対する使用制限その他の要望事項について、書面により同意を得なければならない。
    内部監査人は、内部監査の目標を達成するための内部監査実施計画を策定し、これを文書としておかなければならない。
    内部監査人は、内部監査実施計画書において、監査業務の遂行過程で必要な情報を識別、分析、評価し、これを記録するための手続を定めなければならない。実施計画は内部監査の開始に先立って承認されなければならず、また、その修正についてもすみやかに承認されなければならない。
    また、診断業務の実施にあたっては、診断業務の目標、範囲、関係者の責任、その他依頼部門からの期待事項について、当該部門の同意を得なければならない。重要な診断業務の場合、これらの同意は書面をもって行うこととする。
  6. 内部監査の実施
    内部監査人は、内部監査の目標を達成するために質的かつ量的に十分な情報を識別、分析、評価し、この過程を記録しなければならない。
    (1) 情報の識別
    内部監査人は、内部監査の目標を達成するために質的かつ量的に十分であり、信頼性、関連性があり、かつ、有用な情報を識別すること。
    (2) 情報の分析および評価
    いかなる結論も内部監査人による情報の適切な分析と評価に基づくことが求められる。
    (3) 監査過程の記録
    内部監査人は結論およびその関連情報を記録し、必要により当該記録を内部監査部門以外の者に閲覧させる場合には、内部監査部門長は、事前に最高経営者および法律顧問またはいずれかの承認を得ておかなければならない。
    また、内部監査部門長は、組織体の指針および関連規則、その他の要件と整合した内部監査記録の保管に関する要件を設定するものとする。
    (4) 内部監査の監督
    内部監査の実施は、目標の達成、品質の保証および要員の能力向上を確保するため、適切に監督されなければならない。
  7. 内部監査と管理との関係
    管理部門等が、自己の計画および目標の達成状況を確認し評価するために、その管理の対象となる部署を含めて自主的に行う点検活動は、内部監査とは異なり、あくまでも管理活動の一環を形成するものである。
    一方、内部監査は、それらの管理活動はいうまでもなく、リスク・マネジメントおよびガバナンスの運用を含む組織体のすべての業務活動を監査の対象とする。すなわち、内部監査部門は、管理部門とその管理対象部署とは独立の立場で、それらの管理活動や管理システムがいかに妥当かつ効果的であるかを検討・評価し、これに基づき助言・勧告を行い、管理目標のより一層の効果的達成を促進しようとするものである。特定の部門等に対する診断も、同じ趣旨に基づいて行われるものである。

[6]内部監査の報告とフォローアップ

  1. 内部監査結果の報告
    (1) 報告先と報告手段
    内部監査部門長は、内部監査の活動結果を、最高経営者、取締役会、監査役会または監査委員会、および指摘事項等に関し適切な措置を講じ得るその他の者に報告しなければならない。
    診断業務の遂行過程において、リスク・マネジメント、コントロールまたはガバナンスに関し、監査すべき問題が識別されることがある。これらの問題が組織体にとって重大であると判断した場合には、内部監査部門長は、これを最高経営者および取締役会に報告すべきである。
    法令または規則により別途必要と定められている場合を除き、内部監査部門長は、組織体外部の者に結果を公表する場合には、事前に以下のことを行わなければならない。
    ・結果の公表によって生じる可能性のある、組織体に対する潜在的リスクの評価
    ・最高経営者および法律顧問またはいずれかへの相談
    ・結果の使用および配付先の制約についての検討
    内部監査人は、内部監査報告書の作成に先立って、対象部門や関連部門への結果の説明、問題点の相互確認を行う等、意思の疎通を十分に図る必要がある。これによって、実効性の高い監査報告書の作成と、迅速な改善・是正措置の実現を促し、内部監査の実施効果と信頼性をより一層高めることができる。
    内部監査の結果に関する報告は原則として文書によることとし、緊急度または重要度の高い事項等があるときは、必要に応じ、口頭による説明を併用することがあってもよい。
    (2) 報告規準
    報告には、適切な結論、勧告および是正措置の実施計画と並んで、内部監査の目標と範囲を含めなければならない。また、監査対象業務の実施状況が十分であると判断した場合には、そのことを監査結果の伝達過程で述べることが望ましい。最終報告には、事情に応じ、内部監査人の全般的な意見を含めなければならない。
    組織体外部に内部監査結果を公表する場合には、配付と使用方法に関する制限条項を監査報告書に記載しなければならない。
    なお、診断業務の進捗と結果の報告では、診断業務の内容や対象部門のニーズにより、その形式と内容が異なることがある。
    (3) 報告の品質
    報告は、正確、客観的、明瞭、建設的、完全かつ適時なものでなければならない。
    もしも最終報告に重大な誤謬または脱漏がある場合には、内部監査部門長は、訂正した情報をその報告を受けたすべての関係者に伝達しなければならない。
    また、本基準が完全に遵守されなかったことが特定の内部監査の結果に影響を与える場合には、内部監査報告書において、以下のことを明記しなければならない。
    ・完全に遵守されなかった基準に関する事項
    ・基準が遵守されなかった理由
    ・基準が遵守されなかったことによる監査業務または診断業務の結果への影響
  2. 内部監査のフォローアップ
    内部監査部門長は、内部監査の結果に基づく指摘事項や改善提案事項について、対象部門や関連部門がいかなる改善・是正措置を講じたかに関して、その後の状況を継続的に調査・確認するためのフォローアップ・プロセスを構築し、これを維持しなければならない。
    実現困難な問題等については、その原因を確認するとともに、阻害要因の除去等についての具体的な方策を提言する等フォロー活動を行う必要がある。
    また、内部監査部門長は、組織体にとって許容され得ないようなリスクを担当役員、執行役員、事業部門長等が許容していると判断した場合、当該問題について、それら役員等と討議しなければならない。さらに、討議の結果、問題を解決できないときには、それら役員等および内部監査部門長は、問題を最高経営者、取締役会、および監査役会または監査委員会に報告しなければならない。

[7]内部監査と法定監査との関係

わが国の法律に基づく監査制度としては、証券取引法による公認会計士または監査法人の監査、商法等による監査役または監査委員会の監査、会計監査人の監査、民法による監事監査、地方自治法による監査委員および包括外部監査人の監査、会計検査院の検査等々がある。これらの監査は、内部統制の適切な運用を前提としている。 内部監査としては、これらの法定監査が十分にその目的を達成し得るように、基礎的前提としての内部統制を検討・評価し、その改善を図ることにより、その整備・充実に役立つ必要がある。 特に株式会社の監査としての監査役監査または監査委員会の監査と、公認会計士または監査法人による監査(会計監査人の監査を含む)においては、有効な内部統制がその監査の前提とされており、したがって、内部監査は、これらの監査との情報交換、意見交換等の機会を持ち、さらには連携を図ることが望ましい。

<内部監査基準改訂委員会>

委員長 檜田 信男 青森公立大学大学院 教授 商学博士
委員 岩永 誠 三井物産株式会社 内部監査部長
委員 金瀬 憲 東京電力株式会社 業務管理部部長
委員 神田 幸尚 日本内部監査協会 常務理事 事務局長
委員 小村 正幸 日本電気株式会社 経営監査本部長代理兼監査部長
委員 園屋 和雄 東レ株式会社 監査部長
委員 巽谷 一夫 三菱商事株式会社 執行役員 監査部長
委員 毛利 直広 株式会社新生銀行 監査部長
委員(幹事) 森田 佳宏 駒澤大学 経済学部 教授
委員(幹事) 土屋 一喜 日本内部監査協会 事務局次長
(順不同、敬称略 役職は平成16年3月31日現在)

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